終電間際の改札。乗り越し精算をめぐって声を荒らげた乗客が、対応した駅係員の胸ぐらをつかむ。周囲に防犯カメラはあるものの、改札機の陰になって手元のやり取りまでは映っていない。後から警察に説明しようにも、「言った・言わない」の水掛け論になってしまう――鉄道の現場では、こうした係員への暴力や暴言が後を絶ちません。 鉄道事業者などの共同集計では、2025年度に全国38社局で590件の鉄道係員に対する暴力行為が発生し、コロナ禍直前の水準に迫っています。2026年4月には、大手私鉄が全駅で駅係員にウェアラブルカメラを導入しました。この記事では、暴力行為の現状と鉄道会社の取り組みを整理したうえで、駅係員や乗務員がウェアラブルカメラを使う際の運用のポイントを解説します。
鉄道係員に対する暴力行為の現状は、件数が増加傾向にあり、コロナ禍直前の水準に迫っているというものです。日本民営鉄道協会、JR各社、各地の交通局などが2026年7月6日に公表した集計によると、2025年度(2025年4月~2026年3月)に駅係員や乗務員などの鉄道係員に対する暴力行為は、全国38社局で590件発生しました。
発表では、暴力行為の発生件数は新型コロナウイルスの流行に伴う輸送人員の減少で一時的に減っていたものの、近年の輸送人員の回復によって右肩上がりになっているとしています。2025年度の特徴として、次の点が挙げられています。
鉄道事業者はこれまでも、啓発ポスターの掲出、警察官の巡回や警備員の配置、駅係員への研修、駅構内や車内への防犯カメラの設置などに取り組んできました。発表では、暴力行為は絶対に許されないこととして、鉄道業界全体で毅然とした態度で対応することを強く訴えています。
2026年10月からは、改正労働施策総合推進法により、事業者にカスタマーハラスメントから従業員を守るための雇用管理上の措置が義務づけられました。駅係員や乗務員への暴力・暴言は、まさにその対象となる行為です。相談体制の整備や対応方針の明確化とあわせて、現場で起きたことを事実として記録し、対応につなげる仕組みづくりが求められています。カスハラ対策の義務化の内容については、カスタマーハラスメント対策の義務化を解説した記事で紹介しています。
鉄道会社では、駅係員が身に着けるウェアラブルカメラの導入が進んでいます。固定の防犯カメラでは映らない角度や、係員のすぐ目の前で起きているやり取りを、係員自身の目線に近い位置から記録できるためです。
小田急電鉄は2026年4月6日、同月16日から小田急線の全70駅で、駅係員の胸部に装着する小型のウェアラブルカメラを導入すると発表しました。台数は合計90台で、各駅に1~3台を配置しています。同社は、暴力・暴言を含むカスタマーハラスメントの発生件数が増加傾向にあり、駅係員の安全を脅かすだけでなく、周囲の利用者へのサービス提供にも支障をきたすことを導入の理由に挙げています。
発表によると、使用する場面は次のように限定されています。
録画する際は録画中であることが分かる状態で運用し、録画データは駅長の管理のもとで保管して、定めた目的以外には使用しないとしています。また、カメラを使用する際には、異常時に警備会社へ瞬時に通報できる非常ペンダントを併せて携行する運用です。2025年8月に1駅で試行し、「即時に起動できる」「装着時の安定性が高い」「すぐに記録内容を確認できる」といった点を重視して機器を選定したうえで、2026年3月の再試行を経て本運用を始めています。
駅係員がウェアラブルカメラを使う効果は、トラブルの抑止、事実の記録、そして迅速な情報共有の3つです。
相手に「録画していること」が分かる状態にすることで、暴言や暴力をためらわせる効果が期待できます。小田急電鉄も、録画していることの明示によって抑止効果を高め、トラブルの早期収束に寄与することを目的の一つに挙げています。カメラを向けるのではなく、胸元などに装着した状態で「記録しています」と伝えることで、相手を刺激しすぎずに冷静な対応を促せます。
暴力行為や悪質なクレームが起きた後、警察への届け出や社内での判断を行うには、何が起きたのかを正確に把握する必要があります。駅係員の目線に近い位置からの映像と音声があれば、言葉のやり取りや手元の動きまで残せるため、「言った・言わない」の争いを避け、事実に基づいた対応がしやすくなります。防犯カメラ映像を証拠として扱う際の考え方は、防犯カメラ映像は証拠になるのかを解説した記事も参考にしてください。
ウェアラブルカメラは、トラブル対応だけでなく、駅構内の巡回で見つけた不審物や設備の不具合を記録し、関係部署に正確に伝える用途にも使えます。口頭や文字だけでは伝わりにくい状況を映像で共有できれば、保守担当者や警察などが現地に向かう前に状況を把握でき、対応の迅速化につながります。
ウェアラブルカメラを導入する前に決めておきたい運用ルールは、使用場面、録画の明示、データの管理、緊急時の連携の4つです。利用者のプライバシーに配慮しながら、係員が迷わず使えるルールを整えることが大切です。
あわせて、カメラを装着していても、係員の安全確保が最優先であることを研修で繰り返し伝えておく必要があります。録画を続けるために危険な相手に近づくようなことがあってはなりません。
駅係員や乗務員向けのウェアラブルカメラを選ぶポイントは、すぐに使えること、装着しても業務の邪魔にならないこと、記録を確実に残せることです。
トラブルは突然起こるため、ボタン一つですぐに録画を始められることが欠かせません。また、改札業務や旅客案内で体を動かしても、カメラがずれたり外れたりしないことも重要です。小田急電鉄が機器選定で重視したポイントとしても、即時に起動できること、装着時の安定性が高いことが挙げられています。
大きなカメラを身に着けていると、利用者に威圧感を与えたり、係員自身の負担になったりします。制服の胸元や名札の位置に装着できる小型・軽量のものであれば、通常の旅客対応の妨げになりにくくなります。
本体だけに録画するタイプでは、カメラが壊されたり奪われたりすると映像が失われます。クラウドにも同時に録画できるタイプであれば、そうしたリスクを減らせます。また、通信機能があれば、駅事務室や指令所から現場の映像をリアルタイムで確認し、応援の要否を判断することもできます。
駅係員の勤務は長時間に及ぶことがあるため、バッテリーの駆動時間と勤務の組み立て方の相性も確認しておきましょう。常時録画ではなく、トラブル時や巡回時など使用場面を限定する運用であれば、限られたバッテリーでも必要な場面を確実に記録しやすくなります。
「LiveOn Nano」は、重さ約76g、幅90×高さ38.9×厚み21.4mmの超小型ウェアラブルカメラです。製品ページに記載の仕様によると、正面と側面の2つのカメラを備え、ヘルメットや帽子、名札、胸ポケットなどにハンズフリーで装着できます。4G(LTE)通信に対応しているため、スマートフォンなどを介さずに映像共有や通話ができ、作業状況と音声を自動で録画します。録画はクラウドと本体(SDカード128GBを標準搭載)に同時に保存できるため、万一カメラが壊されたり奪われたりした場合にも、映像を残せる可能性が高まります。動画はフルHD・30fps(最大値)、視野角は水平120°で、手ぶれ補正機能も備えています。IP66の防じん・防水性能と1.5mからの落下試験をクリアした耐久性があり、屋外のホームでも使用できます。駆動時間は5時間です。クラウド録画システムの「LiveOn RecX」と組み合わせれば、駅や乗務区ごとの録画データをブラウザから管理することもできます。
超小型ウェアラブルカメラを使ったカスハラ対策の考え方は、超小型ウェアラブルカメラでのカスハラ対策を解説した記事でも紹介しています。
鉄道事業者などの共同集計によると、2025年度は全国38社局で590件の鉄道係員に対する暴力行為が発生しました。コロナ禍で一時的に減少しましたが、輸送人員の回復とともに増加し、コロナ禍直前の水準に迫っています。週末や夜・深夜に多く発生しているのが特徴です。
導入している鉄道会社では、使用する場面を限定し、録画中であることが分かる状態で運用するといったルールを定めています。録画データの管理者や目的を明確にし、目的外には使用しないことも示されています。導入する場合は、こうした運用ルールを定めたうえで、駅構内の掲示やホームページなどで利用者に周知することが大切です。
駅構内の防犯カメラは広い範囲を見守るのに適していますが、設置場所によっては、係員と相手のやり取りの細部や音声までは記録できないことがあります。ウェアラブルカメラは係員の目線に近い位置から映像と音声を記録できるため、防犯カメラを補う役割を果たします。
共同集計の対象には、駅係員だけでなく乗務員なども含まれています。車内や駅のホームで旅客対応をする乗務員にも、小型で装着しやすいウェアラブルカメラは活用できます。運転業務に支障がないよう、装着位置や使用場面をあらかじめ定めておきましょう。
法律で一律に決められた期間はありませんが、トラブルの申告や警察への届け出が後日になることも考えられるため、社内で保存期間を定めておく必要があります。小田急電鉄の例では、カメラに約50時間分の録画データを保存でき、それを超えると古いデータから順に消去される仕組みとされています。必要な映像は、消去される前に別途保存する手順も決めておきましょう。
鉄道係員に対する暴力行為は、2025年度に全国38社局で590件発生し、コロナ禍直前の水準に迫っています。2026年10月からはカスハラ対策が事業者の義務となり、大手私鉄では全駅で駅係員にウェアラブルカメラを導入する動きも出ています。導入にあたっては、使用場面を限定し、録画中であることを明示し、データの管理と緊急時の連携のルールを整えることが、利用者の理解と係員の安全の両立につながります。
名札や胸ポケットに装着でき、LTE通信とクラウドへの自動録画に対応したLiveOn Nanoのような超小型ウェアラブルカメラを活用すれば、駅係員や乗務員を守りながら、トラブルを事実に基づいて解決する体制を整えられます。運用に合わせた構成について、導入のご相談はお問い合わせ・資料請求ページから承っています。
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