段階確認のたびに監督職員の到着を待って作業が止まる。現場代理人や主任技術者が複数の現場を行き来して、移動だけで一日が終わってしまう――工事現場では、「その場にいないと確認できない」ことが、工期と人手の両方を圧迫してきました。 こうした課題を受けて、公共工事では遠隔臨場の活用が進み、2024年12月施行の改正建設業法では、映像と音声で現場を確認できる機器の設置などを条件に、現場技術者が2つの現場を兼任できる仕組みも始まりました。この記事では、工事現場で使われるウェアラブルカメラのタイプを比較し、遠隔臨場や技術者の兼任で使う場合に確認したい選び方のポイントを解説します。
工事現場のウェアラブルカメラとは、作業員や技術者がヘルメット・胸元・頭部などに装着し、両手を空けたまま現場の映像と音声を撮影・配信できる小型カメラのことです。マイクとスピーカーを備えた製品であれば、事務所や発注者側の担当者が映像を見ながら現場の作業員と会話できるため、確認・指示・記録をその場で完結させられます。
固定設置の現場カメラが「現場全体を定点で見守る」役割を持つのに対し、ウェアラブルカメラは「作業者の目線で、確認したい箇所に近づいて見せる」役割を持ちます。鉄筋の配筋や出来形の寸法、材料の刻印のように、近くで見なければ分からない対象を遠隔で確認できる点が、工事現場で重宝される理由です。
工事現場でウェアラブルカメラが使われる主な場面は、発注者による遠隔臨場、現場技術者の兼任、遠隔での作業支援・教育、そして記録とトラブル対応の4つです。目的によって求められる機能が変わるため、まず自社がどの場面で使いたいのかを整理しておくことが、機種選びの出発点になります。
遠隔臨場とは、ウェアラブルカメラなどで取得した映像と音声を使い、Web会議システムなどを介して、発注者の監督職員が遠隔地から段階確認・材料確認・立会を行うことです。国土交通省の「建設現場における遠隔臨場に関する実施要領(案)」(令和5年3月)では、遠隔臨場で使う動画撮影用のカメラを「ウェアラブルカメラ等」と例示し、機器は受注者が準備・運用するものとしています。監督職員の移動時間が減るだけでなく、受注者側も臨場の日程調整や手待ち時間を減らせる点がメリットです。遠隔臨場の制度の詳細は、国土交通省が推進する遠隔臨場を解説した記事で紹介しています。
現場技術者の兼任とは、本来は工事現場ごとに専任で置く必要がある主任技術者・監理技術者が、一定の条件を満たした場合に2つの現場を受け持てる仕組みです。2024年12月13日に施行された改正建設業法で新設され、「専任特例1号」と呼ばれています。国土交通省の資料によると、主な要件は次のとおりです。
このうち情報通信機器について、建設業法施行規則は「工事現場以外の場所から当該工事現場の状況の確認をするために必要な映像及び音声の送受信が可能な情報通信機器」の設置と、通信できる環境の確保を求めています。監理技術者制度運用マニュアルでは、確実にやり取りできるものであれば一般的なスマートフォンやタブレット、Web会議システムでも差し支えないとする一方、山間部などで確実な情報のやり取りができない場合は要件に該当しないとしています。離れた現場の状況を技術者自身が映像で確かめる手段として、ウェアラブルカメラは有力な選択肢になります。
遠隔での作業支援とは、現場の作業員が装着したカメラの映像を、事務所にいるベテラン技術者が見ながら、音声で手順や判断を指示することです。若手だけの現場でも、施工方法に迷ったときや想定外の状況に出会ったときに、すぐに経験者の判断を仰げます。熟練者が一日に複数の現場を遠隔で支えられるようになれば、人手不足の中でも技術の継承を続けやすくなります。
記録・トラブル対応とは、作業の様子や現場の状況を映像として残し、施工の証跡や事故・不具合の報告に活用することです。遠隔臨場の実施要領でも、遠隔臨場は段階確認などに限らず、現場の不一致や事故などの報告にも活用できるとされています。言葉だけでは伝わりにくい状況を、その場で発注者や本社と共有できる点は、初動の早さにもつながります。
工事現場向けのウェアラブルカメラは、装着する位置と形状によって、ヘルメット・頭部装着型、胸部・クリップ装着型、スマートグラス型の3つに大きく分けられます。参考として、汎用のスマートフォン・タブレットを使う場合とあわせて特徴を比較します。
ヘルメット・頭部装着型とは、ヘルメットの側面や前面に専用マウントで取り付けるタイプです。作業者が顔を向けた方向がそのまま映るため、見てほしい箇所を自然に映しやすく、段階確認や作業支援に向いています。一方で、カメラの位置が目線から少しずれるため、手元の細かい箇所が画面の中心に入っているかを相手と確認しながら撮る必要があります。安全帯(墜落制止用器具)など、ほかの装備と干渉しないかも事前に確かめておきましょう。
胸部・クリップ装着型とは、胸ポケットや作業服の胸元、ヘルメットのあご紐などにクリップで留めるタイプです。小型・軽量な製品が多く、装着していることを意識しにくいため、長時間の巡回や記録用途に向いています。体の正面を広く映せる反面、足元や頭上の対象を映すには姿勢を変える必要があります。通信モジュールを内蔵した製品なら、スマートフォンを持たずにカメラ単体で配信できます。
スマートグラス型とは、頭部に装着し、目の前の小型ディスプレイに図面や手順書、遠隔地からの指示を表示できるタイプです。作業者の目線に近い映像を送れるうえ、手を止めずに資料を確認できるため、点検や複雑な作業の遠隔支援に向いています。音声コマンドで操作できる製品もあります。重量はほかのタイプより重くなりやすいため、装着時間や作業内容との相性を試しておくことが大切です。
スマートフォンやタブレットは、すでに手元にある端末でWeb会議システムを使えば、すぐに遠隔臨場や兼任時の現場確認を始められる点が魅力です。ただし、撮影している間は片手または両手がふさがるため、計測しながら見せる作業や高所での確認には向きません。実施要領でも、カメラの保持や操作で両手がふさがると転倒などの事故につながるおそれがあると注意喚起されています。頻繁に使う現場ほど、ハンズフリーで使えるウェアラブルカメラのメリットが大きくなります。
工事現場向けウェアラブルカメラの選び方とは、使う場面に照らして、映像・音声の品質、通信方式、耐環境性能、双方向の指示機能、記録の方法、費用の6つを比較することです。カタログの数値だけでなく、実際の現場で試用して確かめることをおすすめします。
映像と音声の品質は、遠隔地の相手が「確認できる」かどうかを左右する最も基本的な条件です。国の実施要領では、動画撮影用カメラの参考値として、画素数640×480以上(カラー)、フレームレート15fps以上、マイクとスピーカーはそれぞれモノラル以上が示されています。ただし、これはあくまで目安で、受発注者間で協議して判断するものとされています。実際には、黒板の数字やスケールの目盛り、ボルトの刻印まで読み取れるかが重要です。過去の試行でも、画像が粗くて細かい数字や文字が確認しにくかったという声が報告されているため、ズームや画質の切り替えができるかも確認しておきましょう。騒音の大きい現場では、ノイズを抑えるマイク性能も欠かせません。
通信方式とは、カメラの映像をどの回線で送るかということで、LTEなどのモバイル回線を内蔵したタイプ、スマートフォンのテザリングを使うタイプ、現場のWi-Fiにつなぐタイプがあります。実施要領では、通信量の目安として、720pの映像で1.8Mbps、1080pで3.0Mbps程度が最低限必要な通信速度とされています。電波の弱い山間部やトンネル、地下では通信が途切れやすいため、少ない通信量でも映像が止まりにくいか、画質を落として通信を維持できるかが比較のポイントになります。専任特例を使う場合は、確実に通信できることが要件そのものに関わる点にも注意が必要です。
耐環境性能とは、雨・粉じん・落下・暑さ寒さといった工事現場の環境に耐えられるかどうかです。防じん・防水の等級(IP66など)、落下試験の有無、動作温度の範囲を確認しましょう。夏場の屋外では、端末の温度上昇で動作が止まることもあるため、実施要領でも、気温の上昇などで機器が故障するおそれがある場合は、受発注者間で実施の可否を協議するよう求めています。バッテリーの駆動時間と、予備バッテリーや給電の方法もあわせて確かめておくと安心です。
双方向の会話と指示のしやすさとは、映像を送るだけでなく、遠隔地の担当者が現場の作業者に分かりやすく指示を返せるかどうかです。ハンズフリーで通話できることは前提として、静止画に書き込んで指示を送る機能、図面や手順書を作業者側に表示する機能、遠隔地からカメラのズームや画質を操作できる機能があると、確認のやり取りが短く済みます。電源を入れるだけでつながるなど、現場の作業者に操作を求めない設計かどうかも重要です。
記録の残し方とは、配信した映像を録画するか、どこに保存するかということです。国の実施要領では、遠隔臨場について受注者は映像と音声を配信するのみで、記録と保存を行う必要はないとされています。一方で、社内の施工記録や教育用の教材、トラブル時の証跡として映像を残したい場合は、本体への録画やクラウド録画に対応しているかを確認しましょう。映像には作業員や周辺の建物が映り込むため、保存期間や閲覧できる人の範囲もあらかじめ決めておく必要があります。
費用は、カメラ本体を購入するかレンタルするか、通信費やシステムの月額利用料がかかるかによって大きく変わります。工事の期間だけ使う場合はレンタル、複数の現場で継続的に使う場合は購入や長期契約が向いていることが多いでしょう。1つの現場で複数台を使うこともあるため、初期費用だけでなく、台数分の月額費用・通信費・保守費用を含めた総額で比較することが大切です。
ウェアラブルカメラを工事現場で運用する際の注意点は、安全、プライバシー、通信が途切れたときの備えの3つです。国の実施要領で示されている留意事項をもとに、運用ルールに盛り込みたい項目を整理します。
「監視されている」と受け取られないためにも、導入の目的が作業員の負担軽減や安全確保にあることを、最初に丁寧に伝えておくことが大切です。
国産の遠隔作業支援システム「LiveOn Wearable」は、対応するスマートグラスの電源を入れるだけで接続が完了し、現場の作業者は操作をしなくても、事務所のPCと映像・音声でやり取りできます。PCからは解像度やフレーム数、ズームなどを遠隔で変更でき、図面や手順書をスマートグラスに表示する資料共有や、1台のPCで最大20拠点の映像を表示する監視機能も備えています。独自技術によってデータ通信量を抑えているため、電波環境が安定しにくい屋外の現場でも映像や音声が途切れにくい設計です。NETIS(新技術情報提供システム)にも登録されています(登録番号KT-240116)。また、LTEモジュールを搭載した約76gの超小型ウェアラブルカメラ「LiveOn Nano」は、ヘルメットや胸ポケットに装着でき、IP66の防じん・防水性能と1.5mからの落下試験をクリアした耐久性を備えています。
遠隔臨場や専任特例で使う場合は、使用する機器が確認行為に十分かどうかを、発注者や監督職員と事前に協議しておくことが前提になります。ウェアラブルカメラの一般的な選び方については、ウェアラブルカメラを選ぶ際のポイントを解説した記事もあわせて参考にしてください。
国の実施要領では、参考値として画素数640×480以上、フレームレート15fps以上、マイク・スピーカーはモノラル以上が示されています。ただし、現場での適用を拘束するものではなく、受発注者間で協議して判断するものとされています。自治体の工事では独自の要領を定めている場合もあるため、発注者の要領を確認しましょう。
必須ではありません。建設業法施行規則が求めているのは、現場の状況を確認するために必要な映像と音声を送受信できる情報通信機器の設置と通信環境の確保で、運用マニュアルでは一般的なスマートフォンやタブレット、Web会議システムでも差し支えないとされています。ただし、現場の連絡員が両手を使いながら状況を見せる場面が多いなら、ハンズフリーのウェアラブルカメラの方が使いやすいでしょう。
通信が不安定な現場では、映像が止まったり音声が途切れたりすることがあります。データ通信量が少なくても映像を維持できる製品を選ぶ、現場にWi-Fi環境を用意する、中断したときは画像や映像を記録して後から共有するといった代替手段を決めておく、といった対策が考えられます。専任特例では、確実にやり取りできない環境は要件に該当しないとされている点にも注意が必要です。
国の実施要領では、受注者は遠隔臨場の映像と音声を配信するのみで、記録と保存を行う必要はないとされています。確認を行う現場技術員は、画面キャプチャなどで実施状況を記録します。社内の施工記録や教育に使いたい場合は、録画機能のある製品を選び、保存期間や閲覧範囲のルールを決めておくとよいでしょう。
段階確認や現場の確認が中心で、軽さと着脱のしやすさを重視するならヘルメット・頭部装着型や胸部装着型、図面や手順書を見ながらの作業支援や点検が多いなら、ディスプレイ付きのスマートグラス型が向いています。用途が混在する場合は、両方のタイプに対応したシステムを選び、作業内容に応じて使い分ける方法もあります。
工事現場のウェアラブルカメラは、遠隔臨場による段階確認や立会、2024年12月に始まった現場技術者の兼任、遠隔での作業支援や記録まで、「その場にいなくても確認できる」体制を支える道具です。ヘルメット・頭部装着型、胸部装着型、スマートグラス型にはそれぞれ得意な場面があり、映像・音声の品質、通信の安定性、耐環境性能、指示機能、記録の方法、費用を比較して選ぶことが大切です。
現場の作業者に操作を求めず、屋外でも映像が途切れにくいLiveOn Wearableのような遠隔作業支援システムを活用すれば、監督職員や技術者の移動を減らしながら、現場の確認と指示を確実に行う体制を整えられます。現場の環境や用途に合わせた機器構成について、導入のご相談はお問い合わせ・資料請求ページから承っています。
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